Hanapepe Dream (2001, Artemis Records)

タジ・マハールがハワイアン?
ちょっと音楽に詳しい人なら、第1印象はそうかも知れない。

タジ・マハールは、2020年で78歳になる、長いキャリアを持つミュージシャン。

彼は1942年にニューヨークのジャマイカン・コミュニティで生まれで、大学卒業後、1967年にロサンゼルスで古典的なブルースのカバーを中心としたソロ・アルバムを発表したが、彼がアメリカ南部の所謂ブルース・コミュニィティ出身のミュージシャンでは無かった為、彼の音楽は、イミテーション・ブルースと揶揄され、本物が持つ「深み」がないと批判されたりもした。
しかし、そんな彼は70年代にレゲエをいち早く取り入れたり、カリプソなどカリブ海沿岸の音楽を貪欲に自己の音楽に取り入れていった結果、ブルースを含めて、様々な黒人音楽をクロスオーバーした彼にしかできない音楽スタイルを作り上げた。1990年代には再びブルース的な手法に回帰した彼だったが、そこで聞かれる音楽はまぎれも ないタジ・マハールの作り上げたオリジナルなスタイルとなっていた。

一方、黒人音楽以外のエスニックな音楽への興味もとどまらず、95年にインドのスライド・ギター奏者、V.M.バットと共演アルバムを、97年には本作の前作に当たるハワイアンをとりいれたアルバム「セイクレッド・アイランド」を、99年にはマリのコラ奏者、トゥマニ・ジャパテとの共演アルバムをと、幅広く「クロスオーヴァー」な作品を次々とリリースしている。

このように見てくると、ギャビー・パヒヌイを見出し、いち早くスラック・キー・ギターに注目したライ・クーダーと、このタジ・マハールの軌跡は驚くほどオーヴァーラップしている。まず、2人は1966年に同じバンドでデビューし、ソロ・デビューしてからも二人ともクラシック・ブルースの発掘や研究に力を注ぎ、タジがカリブ海の音楽に接近すると、ライはメキシコやハワイの音楽に接近といった具合。

1997年にザ・フラ・ブルース名義(あちこちで「ザ・フラ・ブルース・バンドとの表現を目にするが、このアルバムでの表記はあくまで「ザ・フラ・ブルース」でしかない、、、)としての1枚め「セイクレッド・アイランド」を発表し、4年のブランクをおいての2ndがこの「ハナペペ・ドリーム」。本作のレコーディングは、カウアイ島のスタジオと、ワールドツアー中にドイツのブレーメンで行われたとのクレジットがある。
ウクレレやスライド・ギターの効いた「ミッドナイト・レイディー」「リヴィン・オン・イージー」などもろハワイアン・アレンジな曲もあるにはあるが、そんなにハワイアンに寄せるわけでもなく、これまで熟成させてきたタジ・ワールドの音楽観に、ハワイアン・ミュージックの精神性とスパイスを振りかけたという感じ。

ちなみに、バンドメンバーのフレッド・ラント、カルロス・アンドレード、パット・コケット、パンチョ・グラハムはナ・パリというカウアイ島の伝説的なバンドのメンバーでもある。

そもそも現代のハワイアン・ミュージックが、トラディショナル・ハワイアンのベースのうえにメインランドから押し寄せたポップスやロックやジャズの要素をふんだんにかつ、雑多に取り入れた音楽として成立しているのだから、そこへタジの持つブルースやブラックミュージックのファンキーさを結合させると、こんなにすばらしく最高の音楽になってしまいました的な仕上がり。

これは、だれがやってもうまくいったわけではなく、タジ・マハールのなかにもともとあった、たとえば、デヴィッド・リンドレー、ヴァン・ダイク・パークスなどとも共通する、異なったいくつかの音楽に精通しそれらを自分なりにマッシュ・アップして新しい形の完成形にするという才能あっての話だと思う。

この後(とは言っても15年も後の)、2015年には「ライヴ・イン・カウアイ」という2枚組ライヴ・アルバムを発表しているのだが、彼は、70歳を超えた今でもアグレシッシヴなロック・アーティストなのだ。

Hanapepe Dream:

“Great Big Boat” (Taj Mahal)
“Blackjack Davey” (Traditional, adapted by Taj Mahal)
“Moonlight Lady” (Carlos Andrade, Pat Cockett)
“King Edward’s Throne” (Music: Taj Mahal, words: traditional)
“African Herbsman” (Richie Havens)
“Baby You’re My Destiny” (Taj Mahal)
“Stagger Lee” (Traditional, arrangement: Taj Mahal)
“Living’ On Easy” (Traditional)
“My Creole Belle” (Mississippi John Hurt)
“All Along The Watchtower” (Bob Dylan)
“Hanapepe Dream” (Traditional)

何故か1枚目はSpotifyにて配信中