ケン・エマーソン。本名、ケントン・ロバート・ロパカ・エマーソン。
あちこちのコンピレーション・アルバムで名前がクレジットされている中堅スラック・キー・ギター・プレイヤー。
これまで、何故か彼に然程興味を持ってこなかった僕にとっては、それぐらいの認識だった。
しかし、今回、この器用なギター・プレイヤーの無骨なアルバムを紹介しようと、彼について調べ始めると、なにかと驚かされることが多かった。
ケン・エマーソンは、メインランドの西海岸、ベイエリアで生まれ育ち(ハワイで生まれたが程なくサンフランシスコに引っ越した説もある)、1960年代のサンフランシスコという絶好のタイミングで、フォーク、カントリー、ジャズ、ブルース、ロックのプレイング・スタイルを学び、家族でハワイに引っ越してきて、新たに魅了されたハワイアン・ミュージックに応用し、融合させ、特別なブレンドで、現代の”ヴィンテージ”サウンドを半世紀近くにわたり構築してきた人物。
つまり、ケンは、幼少期から、父親がコレクションする76rpmのジャズ、スウィング、ハワイアン、ワールドミュージックスタイルの豊富なレコードを聴き漁りながらも、リアルタイムで、60年代初頭のフォーク・ブーム〜ウッドストックに象徴されるロックの台頭を肌で感じながら成長していったのだ。 そして、父のアナログ・レコードで聞いた100年近く前から現在へと繋がる様々なハワイアンギターのスタイルに魅了され、一度は途絶えていたヴィンテージ・スタイルを復活させた功労者であり、更に、そこにジャズやブルースのテイストを加えてケン独自のプレイ・スタイルを構築したイノヴェーターでもあるのだ。それも、スラック・キー・ギターのみならず、スチール・ギターをもだ。
60年代初頭のフォークとブルースから右手のフィンガー・スタイルのテクニックを学んだのちに、 60年代後半、彼はロックとエレクトリック・ブルースに没頭し、ボトルネックとスライドギターに魅了される。 特に、スチールギターの神、ソル・ホオピイらのヴィンテージのレコードを聴き、20年代と30年代のプレーヤーをエミュレートした。 今や、ケンは、ヴィンテージのアコースティック・スチールボディのナショナル・レゾネーター・ギターのでスラック/スチール両刀遣いスタイルの演奏で有名だが、そんな実力はすぐに知れ渡り、彼はギャビー・パヒヌイ、ジェノア・ケアウェ、レイモンド・カネ、モエ・ケアレなどの伝説的なアーティストと一緒に演奏するようになっていた。
そんな彼の名前が「表面化」してきたのは、1978年、アマチュアのためのオーディション「ホーム・グロウン」に兄のフィルと結成した「ジ・エマーソンズ」で参加し、見事優勝したとき。兄弟は翌1979年に彼らの画期的なアルバム「The Emersons」をレコーディングし、そこで彼らはヴィンテージの楽器を演奏し、半世紀もの間ハワイでも聞かなかったスタイルを再現してみせたのだった。彼らはまた、ヴィンテージ・ギターのコレクターとしても知られている。
ケン・エマーソンは、今日生きている世界で最も高く評価されている伝統的なハワイのスラックキーギターとスチールギタリストの一人と称賛されている。 こうした彼の活動は、ハワイの文化を永続させたことで名誉あるカヒリ・アウォードを受賞し、彼のオリジナルの作曲と「Slack Key Guitar Vol 2」(Palm Records)でのパフォーマンスは、2005年に史上初のグラミー賞を受賞に大きく貢献した。一方で、彼は、ドナルド・フェイゲン、ジャクソン・ブラウン、ボズ・スキャッグス、タージ・マハル、エルヴィン・ビショップなど、多くのツアー/レコーディングのクレジットも持っている。2002年には、あのパブロ・クルーズのメンバーだったこともあるようだ。
このアルバム「スラック&スティール」では、ケンのオリジナルが5曲、レイ・カネの「プナヘレ」を含む残りの9曲はトラディショナルや1920年代の楽曲を復刻したもの(オリジナルは14曲入り)。これはケンのインストルメンタル・ミュージックの最初のアルバムであり、真のマイルストーンと言える1枚。コード・インターナショナルから復刻されたヴァージョンやSpotifyでは、元のセッションからの5つの珍しいアウトテイクが含まれている。
#15以降はボーナストラック(オリジナルにはない)